哀しみエンジン
案の定、清水さんを混乱させてしまった。
黙り込んで、何も言ってくれない。
「やっぱり気付いてくれる訳ないですよね。清水さんは、いつだって服部先輩しか見てない。憎いくらいに鈍感で、一途で……」
俺より、やっぱり服部先輩か。
服部先輩の顔を浮かべて、悔しくて、言葉に詰まった時。
ふと清水さんの髪に桜の花弁が、綺麗に乗っかっているのに気付いた。
そっと花弁を取り、触れた髪はとても柔らかい。
そして、飛んでいった花弁は、静かに消えた。
「ありがとう。伝えてくれて」
そう言った清水さんの声は、震えていた。
今は清水さんを想う度に、うるさく騒ぐ俺の気持ちも先程、どこかへ飛んでいった花弁の様に、ちゃんと消え失せてくれるだろうか。
つい、深い溜め息も出る。
まぁ、今はこれで良い。
せめて、知っておいてもらいたかった。
俺の中では、初恋の人。
人生で初めてこれでもか、というくらいに惚れた人。
「ありがとう」なんて言われたら、まだ可能性が有るのかもと期待してしまう。
でも、可能性なんて無いんだろ、どうせ。
今すぐにでも泣き出したい気持ちだが、涙が出る気配はない。
とにかく自制心を働かせて、いつも通りを装う。
しかし、いつも通りの声のトーンがどこだったか、分からなくなる。
何でなんだ、俺。
言うことは言って、すっきりしたはずだろ。
何を動揺しているんだ。
こんな顔は、清水さんに見せたくなくて、彼女の後方に回る。
彼女の華奢な肩をそっと、押す。
「もう良いですから。早く場所取り済ませて、一足先にまったりしましょう」
諦めたい。
誰か、俺を諦めさせてくれ。