哀しみエンジン



案の定、清水さんを混乱させてしまった。

黙り込んで、何も言ってくれない。



「やっぱり気付いてくれる訳ないですよね。清水さんは、いつだって服部先輩しか見てない。憎いくらいに鈍感で、一途で……」



俺より、やっぱり服部先輩か。

服部先輩の顔を浮かべて、悔しくて、言葉に詰まった時。

ふと清水さんの髪に桜の花弁が、綺麗に乗っかっているのに気付いた。

そっと花弁を取り、触れた髪はとても柔らかい。

そして、飛んでいった花弁は、静かに消えた。



「ありがとう。伝えてくれて」



そう言った清水さんの声は、震えていた。

今は清水さんを想う度に、うるさく騒ぐ俺の気持ちも先程、どこかへ飛んでいった花弁の様に、ちゃんと消え失せてくれるだろうか。

つい、深い溜め息も出る。

まぁ、今はこれで良い。

せめて、知っておいてもらいたかった。

俺の中では、初恋の人。

人生で初めてこれでもか、というくらいに惚れた人。

「ありがとう」なんて言われたら、まだ可能性が有るのかもと期待してしまう。

でも、可能性なんて無いんだろ、どうせ。

今すぐにでも泣き出したい気持ちだが、涙が出る気配はない。

とにかく自制心を働かせて、いつも通りを装う。

しかし、いつも通りの声のトーンがどこだったか、分からなくなる。

何でなんだ、俺。

言うことは言って、すっきりしたはずだろ。

何を動揺しているんだ。

こんな顔は、清水さんに見せたくなくて、彼女の後方に回る。

彼女の華奢な肩をそっと、押す。



「もう良いですから。早く場所取り済ませて、一足先にまったりしましょう」



諦めたい。

誰か、俺を諦めさせてくれ。


< 40 / 44 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop