哀しみエンジン
モノローグ
──そんなこんなの4年間で、無機質だった俺の中は、たくさんの感情が渦巻いている。
一気に思い起こした、あの日々は多くのことが有り、鮮やか過ぎて、今でもチカチカする。
それでも、懐かしくて、時々帰りたくなるのは。
あの時、受け入れてくれた仲間たち、何より、清水さん、そして、ついでに服部先輩が居てくれたから。
『……やっぱり格好良いな』
服部先輩に、そう言われたが。
「何も格好良くなんて、ねぇよ」
今でも、ずっと1人の人を引き摺り続けているから。
その証拠に、俺の隣には未だに誰も居ない。
これからの人生、彼女以上に好きになれる人なんて、現れるのか。
想像してみたところで、これっぽっちも浮かばなくて。
その上、俺の中だけで、彼女が苦く残っている。
そんな彼女が、少し憎いだけ。
だが、ただ1つだけ、取り戻せた「もの」だってある。
今、地元の小学校の広い運動場を前に、仁王立ちしている俺。
冒頭で言った通り、服装はプラクティスシャツにハーフパンツで。
そして、俺の周りには、続々と同じ様な格好をした子ども達が集まってくる。
これから、少年サッカーチーム同士の練習試合が始まる。
俺の父親が監督で、俺は一応、見守り指導役のコーチ紛い。
子どもが苦手だったくせに、今では仕事が休みの日には自分から進んで、こんなことをしている。
しかし、全く嫌じゃない。
『ここでなら、苦手なことも、いつか好きになれるよ』
清水さんが言ってくれたこと。
本当だった。
不意に彼女の、あの柔らかい表情が浮かぶ。
今でも、こんなに好きだ。
悔しいくらいに。
好きなんだ。
哀しみエンジン
おわり。