哀しみエンジン
「名前は?」
服部先輩から尋ねられたが、俺に向けられたその表情は、至って普通のものになっていた。
思わず、安堵する。
いきなり先輩に目をつけられたりなんてしたら、やりにくいこと、この上ない。
「直江です」
「直江くんな。俺は服部。2年です」
自己紹介を交わすと、一緒に行ってもらえるということで、後をついていく。
「あの、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしく」
「あの、質問しても良いですか」
「ああ。何でも聞いてくれ」
「あの、さっきの女の先輩が言っていた『ボランティアサークル』っていうのは……」
「何だ、興味があったのか」
「いや、興味があるとか、そんなのではないんですが」
「『ボランティアサークル』は、地元の人やNPO法人とかに、こっちから手伝えることはないかって、声掛けをして、仕事を募って活動してるサークルだよ」
「服部先輩は、サッカー部なんですよね。その部活と、どう関係があるんですか?」
また俺が尋ねると、口角を上げる。
待ってました、とでも言いたげに。
「俺、実は兼部してるんだ、サッカー部とボランティアサークル」
余程、これを言いたくて、ウズウズしていたらしい。
嬉しそうに、良い顔をしている。
そんな顔が出来る程、純粋にそれらの活動に打ち込んでいるのだろう。
この時点では、まだ服部先輩は俺にとって、尊敬したい人だった。