政略夫婦の愛滾る情夜~冷徹御曹司は独占欲に火を灯す~
「だって、なにも言ってくれないから」

 あぁ、また余計なことを言ってしまうと思うのに、痺れたように理性が動いてくれない。

「加郷といたから、専務に誤解されたかも、しれないって……」

 涙と一緒に、悲しい言葉が溢れだした。

「専務に、誤解されたくなくて」

「誤解?」

「専務のことが好きなんです。――でも、専務は私のことなんて、なんとも思ってないんでしょう?」

「紗空」

 低く響いくその声は、悪魔が吹きつける甘い罠のようだと思う。

「大丈夫、わかっているから」

「……髪に虫が付いていて、取ってくれただけなんです」

「そうか、わかったよ。だから泣くな」

 専務は私の頭を抱えるようにして抱き寄せる。

 でも専務。わかったなんて言葉が聞きたいわけじゃないんです。

 こういう時こそ怒ってほしいのに、他の男とふたりでランチなんかするなって言ってほしいのに、あなたは言ってくれないから。だから、涙が止まらないんです。



< 142 / 206 >

この作品をシェア

pagetop