政略夫婦の愛滾る情夜~冷徹御曹司は独占欲に火を灯す~
 私が履いているのはスカートではなくジーンズで、靴は高いヒールのないスニーカー。羽織っているのはカシミアのコートではなくダウンジャケットだ。

 歩きながらまわりの畑を見渡すと、色々な野菜が見える。ネギ、ほうれんそうに白菜、その向こうは大根。どの野菜もみずみずしくてとてもおいしい。

 こんなに寒いのに元気に育つ野菜に感心していると、父が冬の野菜が甘い理由を教えてくれた。

『野菜自らが越冬の準備をしているんだ。寒さから身を守るために糖分を蓄えるからなんだよ』

『へえー、すごいね』

 両親はすっかり農家の人になっていた。

 以前は平日は町中のマンションにいて、趣味の農作業をする時だけ来ていた農家住宅だったけれど、今はその逆だ。

 信頼していた人に裏切られた時、この大地が励ましてくれたんだと両親が言っていたけれど、帰ってみて私もその気持ちが痛いほどわかった。
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