政略夫婦の愛滾る情夜~冷徹御曹司は独占欲に火を灯す~
 農業は体力を使う。寒くても外で体を動かしているとなかったはずの食欲も湧いてくるし、体が疲れればぐっすりと眠れる。それがとてもありがたかった。

 泣き暮らすのは性に合わないし、嫌な想い出にはしたくない。

 専務にもらったネックレスとイヤリングはジュエリーボックスにしまったけれど、ブレスレットはまだそのままだ。

 『外すなよ』と言われたままだものと言い訳して。

 いつかは外さなきゃいけないけれど、まだもう少しだけ、彼を好きでいたい。

 ストーカー被害に遭ってから、私はもう恋愛はできないってとあきらめていた。

 男性の好意が怖くなったし、心にできた壁は高くて厚くて、容易に崩れそうもなかった。あれから誰に誘われても恐怖しか感じなかったし、私はもう離れた場所から憧れるくらいしかできないとあきらめていた。

 でも彼は、いつの間にか壁をすり抜けて、私の心に入ってきた。

 好きな人に触れられてキスをして、胸を焦がすような恋の素晴らしさを私は知ることができた。

 それだけでもう十分。
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