政略夫婦の愛滾る情夜~冷徹御曹司は独占欲に火を灯す~
 今は考えられないけれど、いつか新しい恋もできるだろう。

 幸せな想い出にするために泣いちゃいけないと、心に言い聞かせながら畑仕事を手伝っているうちに元気も出てきた。

 年末年始の気ぜわしさが沈んだ気持ちを紛らわせてくれたのもあるのだろう。母の買い物に付き合ったり、大掃除をしたりと慌ただしく過ごしているうちに、こっそりと枕を濡らす夜は少なくなった。

 今頃どうしているのかなと、ふとしたはずみに考えてしまうけれど、そんな時は無理にでも彼と織田の令嬢との結婚式を想像して気持ちが静まるのをのを待った。

 彼の幸せが一番だ。

 以知子さんは意地悪な人だけれど彼には優しいだろうし、妻としてと尽くしてくれるはず。織田家は力強い支えになって、スオウグループの株価も上がるに違いない。

 彼の幸せのためだもの、喜んで身を引ける。

 最後の挨拶ができなかったのは心残りだけれど、それは仕方がない。

 決意とは裏腹に、笑顔で別れの言葉を口にする自信はなくて、出張で彼がいないうちにtoAを去った。
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