政略夫婦の愛滾る情夜~冷徹御曹司は独占欲に火を灯す~
 宗方さんに頼んで残してきた小さな箱の中身はチョコレート。

 五つの粒に込めた思いは『す・き・で・し・た』の五文字。誰にも言えない自分だけの秘密。

 あれからどうなったのか何もわからない。

 結婚のリアルなニュースを受け止める自信はまだなくて、テレビのニュースも新聞も、ネットすらしばらく繋いでいないから。


 母の車を二十分ほど運転し市街地のコインパーキングに車をとめて、街を歩いた。

 穏やかな天気につられて久しぶりにおしゃれをしてみたけれど、真の目的は職探し。

 今は事務職より体を動かしていたい。小さなカフェとか雑貨店とかで人と触れ合う仕事もいいかなとも思っている。

 がらりと生活を変えれば何かが変わるかもしれないし。

 壁やショーウインドウに貼ってある求人の広告を見ながら歩いていると、通りの向こうから背の高いビジネスマンがふたり、こちらに向かって歩いてくるのが見えた。

「え?」

 嘘でしょ。
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