政略夫婦の愛滾る情夜~冷徹御曹司は独占欲に火を灯す~
「お口に合うといいのですが」

「とてもおいしい」

 満足そうに頷く西園寺さんの様子にホッと胸を撫で下ろす。

 この店は、地元の庶民が記念日や特別な日にしか利用しないような高級店だ。ランチとはいえ価格はホテルのディナー並みだけれど彼らには何の問題もない。

 心配なのは彼らの肥えた舌だったけれど、都心の一流ホテルで修業したシェフの腕は確かだったらしい。

「地元はこちらだったのですね」

「ええ、青扇を卒業してここっちの大学に通っていました」

「そういえばtoAをお辞めになったと聞きましたが、今はどうしていらっしゃるんですか?」

 実はちょっとアルバイトをしようと思っていると正直に話をすると、鈴木さんは、「いつでも西園寺ではあなたをお待ちしていますよ」と微笑んだ。

「ありがとうございます」

 お世辞とわかっていてもうれしかった。

 でも、心はそれ以上動かない。あれほど行きたかった西園寺で働くだけの情熱は消えてしまったようだ。

(――あ、そういえば)
< 165 / 206 >

この作品をシェア

pagetop