政略夫婦の愛滾る情夜~冷徹御曹司は独占欲に火を灯す~
「マンデリンか」

「ああ。まあまあだろ?」

「僕はコーヒーの酸味が好きなんだ。でもまぁたまには悪くない」

 澄ましてそう言うコウは喉が渇いているのか、ごくごくと飲み干した。

 打ち合わせついでにコウこと西園寺洸と彼の秘書鈴木が専務室に来た。

 父が強引に織田と共同で勧めようとしていた開発は、そのまま全て西園寺と組む手筈になっている。コウと鈴木がいる限りとりあえず不安はない。

 俺は疲れ切っている。

 今はできる限り悩みは減らしたい。

「随分疲れた顔をしているじゃないか。体力自慢のくせに」

 フンと鼻を鳴らすと隣の宗方が「精神的にお疲れなんですよ」と余計なことを言う。

「そういえば加郷という男は、いまどうしているんですか?」

 鈴木が少し身を乗り出すようにして聞いてきた。

「さあな、バンガロールに行くとか言ってたが」

「ああ、インドのシリコンバレーですか」

 加郷は織田のスパイだった。

 社内のコンピューターにマルウェアを仕込み、その足で姿を消した。
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