政略夫婦の愛滾る情夜~冷徹御曹司は独占欲に火を灯す~
 退職届をtoAに提出する少し前、マンションを引き払った加郷は、以前から時々寝泊まりするなどして下見していたネットカフェに潜んでいたのだ。

 闇サイトから偽名のパスポートなどの身分証を手に入れ、様子を見極めてから海外に逃げるつもりでいたが、奴の予想以上に監視体制が厳しく様子を見ていたらしい。

 俺は仁の警備会社にも協力を仰いでいた。客の顔を確認するように、鋭い目をした男たちが朝と言わず夜と言わず店内をうろついているとなれば、加郷も迂闊に動けなかったのだろう。

 身動き取れないところを見つけ出した。

『織田の情報を渡せば、訴えはしない』

 俺の提案に、ふてくされたように加郷は頷いた。 

『クズだよ。あそこは外見だけは立派だが、中は手が付けられないほど腐ってる。全ては社長のせいだとわかって、色々とバカらしくなった。あんなクソみたいな会社もらったところで骨の髄まで腐ってちゃどうにもならない』

 今まで母や自分を顧みることがなかった父親になど、加郷には何の興味もなかったらしい。
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