政略夫婦の愛滾る情夜~冷徹御曹司は独占欲に火を灯す~
 先に歩いていたコウがエレベーターに乗り、鈴木が後から入ると、コウは俺を睨んで、鈴木に言った。

「イヤな予感がする」

「どんな予感ですか?」

「カンガルーが結婚するとか言いだす予感だ」

「あはは」

 専務室に戻ると、宗方がカップを片付け始めた。

「コーヒー、もう一杯いれましょうか?」

「いや、大丈夫だ」

 紗空が辞めてから担当秘書は宗方だけになった。女性秘書はいない。紗空がいたカウンターデスクには、客が来るとわかっているときだけ、秘書課の誰かが来る。

「さきほど無事、会長と奥さまがカナダで合流されたと、連絡があったそうです」

「そうか」

 窓辺に立って外を見た。

「吉月さんに、会いにいかないのですか?」

 背中から宗方にそう聞かれたが、どう答えていいかわからない。

 俺は自分が許せないでいる。

 早く手を打てば防げたことを悔やんだし、なによりもあの瞬間、自分が選んだのは、紗空よりも会社で、そのことがいつまでも胸の奥のしこりとなって消えない。
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