政略夫婦の愛滾る情夜~冷徹御曹司は独占欲に火を灯す~
「私が弱音をはかなかったから……」

「ああ。秘書課は厳しいからね」

 なるほど、そう言われれば納得できなくもない。

 咲子さんの冗談を真に受けて、もしかしたら須王燎が謎の採用と関係しているのかも? などと考えた自分が恥ずかしくなった。

「私、秘書課でやっていけるのでしょうか」

「大丈夫だ、君ならできる」


 自分の席に戻って、密かにため息をついた。

(でもね……)

 ここで働くキャリア志向の女性なら、秘書課への異動は光栄でうれしい知らせだろう。

 だけど私は喜ぶどころじゃない。不安が大きくて足が竦む。

 西園寺に行っても、キャリアウーマンを目指すつもりはなかった。私はただ、西園寺ホールディングスのどこか小さな部署の、目立たない地味な仕事につければそれでよかったのに。

 西園寺で働いて、いずれは実家の不動産業を受け継ぐつもりでいた。そのために学生のうちに宅地建物取引士と不動産鑑定士の資格を取っている。
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