政略夫婦の愛滾る情夜~冷徹御曹司は独占欲に火を灯す~
「花束を買いたい、花屋に寄ってくれ」

 運転手にそう告げた。


 初めて入った花屋は、甘い匂いに満ちていた。

 どういった花束にしましょうかと聞かれ、正直に答えた。

「二十代の薔薇が好きな女性に贈る花束を」

 店員が薦める薔薇からいくつか選んだ。

 白とピンクと紫の薔薇の花束。

「キレイだな」

 紗空は喜んでくれるか?

「きっと喜んでいただけると思いますよ」

「ありがとう」

 リムジンに乗り花束をそっと隣に置き、時計を見て時間を確認する。

 それから花束に添えるカードを手に取り、内ポケットからペンを取り出した。

(――さて、なんて書こうか)

 紗空の家まで高速道路を飛ばして一時間と少し。考える時間はたっぷりある。

 窓の外を流れる景色を見つめながら、ため息をついた。

 大切に思っているなんて言ったくせに、あんなふうに突き放した自分を紗空はどう思っているだろう。

 軽蔑しているかもしれないな……。

 だけどブレスレットをしているんだろう?

 だったら喜んでくれるか?
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