政略夫婦の愛滾る情夜~冷徹御曹司は独占欲に火を灯す~
 受け継ぐとはいってもバリバリ働こうというつもりじゃない。小さな会社だし潰れない程度にがんばろうと思っただけだ。

 大手ゼネコンの西園寺に就職すれば得るものは必ずあると思った。青扇学園の憧れのスターが西園寺にいるという少々やましい理由もあったけれど、一応真っ当な志だってあったのである。

 商社の秘書課で精力的に働きたいなんて、そんな夢はこれっぽっちもなかった。

(どうしてこうなってしまうかなぁ?)

 憂鬱な気持ちを抱えたまま、デスクの卓上カレンダーを手に取った。

 九月は来週で終わってしまう。異動はもうすぐだ。

 悶々としたまま迎えた翌週。社内ネットワークの掲示板で人事異動が発表された。

『役員人事異動
 専務取締役  須王 燎』

 その下。なん行にも渡る社員の人事異動の中に、しっかりと私の名前もあった。

『秘書課  吉月 紗空』

 当然、総務課はざわついた。

『やっぱりね』などという声も耳に届くけれど、気にする元気もない。
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