政略夫婦の愛滾る情夜~冷徹御曹司は独占欲に火を灯す~
 頷いて、次の瞬間には駆け出した。


「専務……」

 細いあぜ道を、須王専務が歩いてくる。

 見たこともないほど大きな花束を持って。




「専務」

「君に、大切な用事があって来た」

 少し不安に眉を落とした彼は、私の手首で揺れるブレスレットを見つめる。

「用事……ですか?」

 もしかしたら秘書復活?

 期待に胸を膨らませてジッと見上げると、彼はゆっくりと口を開いた。

「すまなかった。たとえ嘘でも婚約のこと、辞めるように言ったことを許してほしい」

「いえ、そんな。大丈夫です」

 専務はホッとしたように微笑む。

「紗空、君のことが好きだ。
 今までも、これからも、ずっと愛している。だから、俺と結婚してくれないか?」

「――え?」

 加郷がさっき言っていた。

『俺さ、須王専務を脅したんだ。織田以知子と結婚して紗空を辞めさせろってさ』

『どうしてそんなこと?』

『あの男が紗空を好きだからさ』

『え?』

『ごめんな紗空』

 加郷の勘違いだと思った。

 だって、専務が私を好きなはずないから。
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