政略夫婦の愛滾る情夜~冷徹御曹司は独占欲に火を灯す~
コーヒーはマンデリン。
私ったらこんなに影響されやすい人だったのかと呆れるくらい、実家に帰ってからも、専務が好きなマンデリンばかり飲んでいた。
そんな自分の女々しさが嫌だったけれど、今は心からホッとしている。専務を忘れるためにも捨てちゃおうかと思った矢先だったから。
危ないところだったと独り言ちて、カップにコーヒーを注ぎ、クッキーを添える。
暇に任せて昨日焼いた手作りクッキー、食べても食べなくてもいい、専務に出せるだけでうれしくてたまらない。
このキッチンからは見えないけれど、専務は私の部屋にいる。
嘘みたいな本当の話に、私はずっと混乱している。
二時間くらい前。
花束を持ってきてくれた専務を両親に紹介した。
専務は突然の訪問を謝って、『紗空さんに結婚を申し込みに来たんです』なんて言い出したものだから、両親はひっくり返らんばかりに驚いて、それはもう大騒ぎになった。
何しろ大変な時にお金を貸してくれた恩もある。とにかく家でお茶でもという話になり、話は弾んでそのまま昼食をみんなでとることになって。
専務は明日も休みだと聞いた父が、泊まっていってもらいなさいと言い出した。