政略夫婦の愛滾る情夜~冷徹御曹司は独占欲に火を灯す~
「紗空ちゃん、あの人」
 咲子さんが耳打ちする。

 私は心臓を高鳴らせながら小さく頷いた。

 ――須王燎。
 彼の隣で一歩後ろを歩く男性は秘書だろう。主に秘書が話しかけ、彼は前を向いたまま軽く返事をしながら歩いてくる。

 ロビーにいる社員も彼らが放つ強いオーラに圧倒されているらしい、遠巻きにして行き先を空け始めた。

 緊張しながらすれ違い、大きな入り口をくぐる時、通りから強い風が吹き抜けた。

「きゃ」

「うわっ、風強いね」

 その風を避けるように顔を背けたとき、通り過ぎたばかりの須王燎もまた振り向いていた。

(――あっ)

 目が合ったのは、ほんの0.数秒。

「急ぎましょう先輩。お店が混む前に」

 ここに居てはいけないような気がして、追い立てられるように通りに出た。



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