政略夫婦の愛滾る情夜~冷徹御曹司は独占欲に火を灯す~
 五十代だろうか、課長は穏やかな笑みを浮かべて眉を下げる。優しそうだし、なにより待たされた理由もわかってよかった。会議なら仕方ない。

 二時間分の不安や不満を課長の笑顔でチャラにした。

「あはは、大丈夫です。よろしくお願いします」

「じゃあ、まずみんなに紹介しよう」

 課長に連れられて、あらためてあいさつに行った秘書課は賑やかだった。

 電話のベルと会話とで活気に満ち、忙しそうな秘書たちが颯爽と行き交っている。 でもやはり私の席はそこにはないらしい。あいさつが済むとまた廊下の席に戻された。

「仕事は須王専務の専属秘書宗方の指示に従ってください。宗方は今、専務についてあいさつに回っていますが、じきに戻るでしょう。では、頑張って」

「はい」

 それだけ言うと課長は行ってしまった。

 結局課長からも具体的な仕事の話はなかった。二時間経ってわかったのは、自分の席と自分の上司の名前。なんでもいいから仕事さえあれば時間を潰せるのに、どうしていいかわからない。
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