政略夫婦の愛滾る情夜~冷徹御曹司は独占欲に火を灯す~
別の先輩は左右に首を振る。
「羨ましいもんですか。仕事ができる子だったのにもったいない」
彼女の結婚は恋人の海外転勤を機に突然決まった。転勤先はロンドンで期間は最低五年。迷う彼女に恋人は、付いてきてほしいとプロポーズをしたという。
漠然とだけれど、いいなぁと私は思う。
彼女は決断をして一歩先に進んだ。しっかり者の彼女はこの先何があっても幸せを掴むだろう。
その一方で……。
窓ガラスに映る自分を見る。
一つに括ったロングの髪。水色の厚手のブラウスに紺色のスカートを履いたごく普通の会社員が、つまらなそうに見つめ返す。
吉月紗空二十六歳。私は、ここに立っているはずではなかった。
花束を抱える彼女の後ろ姿が廊下に消えたのを合図に、場はお開きになる。
席に戻ろうと向きを変えた時、隣のビルが目に映った。
そびえ立つのは大手ゼネコン西園寺ホールディングスの本社。壁や大きな窓ガラスがスクリーンとなり、鮮やかな夕焼けを映し出している。
私はあのビルの中にいるはずだった。