政略夫婦の愛滾る情夜~冷徹御曹司は独占欲に火を灯す~
 微笑みを絶やさない口元や、私に向かって少し屈んだ姿勢に気遣いが表れていた。

「待たせましたね、すみません」

「いえ」

 宗方さんのやや後ろで、手にした書類を見つめていた須王専務は、チラリと私を見下ろす。

 目が合った瞬間、心臓が縮こまった。

 わかっていたとはいえ彼はにこりともしない。無表情の彼はやはり怖くて、切れ長の目で一瞥されると身がすくんでしまう。

 なまじ整っているだけにつけ入る隙もなく、心は和みようもない。

「須王です。よろしく」

 事務的にそう言った彼は、そのまま専務室へと入っていった。

「あ、よ、吉月です。よろしくお願いします」

 慌ててそう言い終わったときには、ガチャっと専務室の扉が閉まった音がした。

 唖然とする私と、苦笑する宗方さん。

「では、早速、仕事の話をしましょうか」

「は、はい」

「朝、そして午後三時に専務にコーヒーを出してください。それから来客時にも。給湯室にコーヒーメーカーがあります」

「はい。わかりました」
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