政略夫婦の愛滾る情夜~冷徹御曹司は独占欲に火を灯す~
 なんでも真面目に突き詰めていけば無駄にならないものだ。前向きになると勉強するだけでも楽しくなってきた。この席にひとりでいるのも慣れてきたし、案外このままがんばれると思えて。――それなのに。

 私がよくても、上司が私を嫌いならどうしようもない。

「はぁ……」

 今朝。
 私は確信した。

『おはようございます』

『おはよう』

 いつからだろう?

 専務は私の席を少し避けるようにして通り過ぎる。

 ここ数日気にして見ているのだから勘違いではない。専務は廊下を曲がった時から、明らかにこのカウンターデスクを遠巻きにして歩いてくる。

 最初の頃はそうではなかった。

(私、避けられるほど嫌われるようなことしたかな?)

 仕事は変わっていない。あいかわらず須王専務や来客にコーヒーやお茶を出すだけだ。これ見よがしに嫌われるほど重大なミスを犯す機会もない。それなのに。

 さすがにこれはもう。

(ここらへんが限界かなぁ)
< 44 / 206 >

この作品をシェア

pagetop