政略夫婦の愛滾る情夜~冷徹御曹司は独占欲に火を灯す~
 須王専務は書類を片手に窓際に立ち、背中を向けている。

 その背中に宗方は「専務」と声をかけた。

 専務からは返事がない。

「吉月さんの仕事のことですが、もう少し色々仕事を頼みたいのですが、よろしいですか?」

(――宗方さん?)

 宗方さんは私に仕事を渡してくれようとしている。となると、やはり私に仕事を与えないのは専務の指示だった?

 専務はどう答えるのだろう。

 息をひそめて背中を見つめたけれど、専務は振り返りもしないし何も言わない。

「吉月さんには、私からいくつか書類作成をお願いしようかと」

「不味いコーヒーを毎日毎日我慢して飲んでいるんだぞ、俺は。書類だって? そんな大事な物を任せて、これ以上俺に何を我慢しろっていうんだ!」

 続けた宗方さんの声を、専務の声が容赦なく遮った。

 心が一瞬で凍りついた。

 冷や水を浴びせられるという言葉があるが、彼の言葉は冷や水どころではない。氷柱のように先の尖った氷となって、グサグサと心に刺さる。

「専務、それはあの……」
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