政略夫婦の愛滾る情夜~冷徹御曹司は独占欲に火を灯す~
 心のどこかで、マシーンがいれたコーヒーを出すなんて誰だってできるし、取るに足らない雑用だって思っていた。たったひとつの仕事だったのに。

(ちゃんと謝らなくちゃ。辞める前に)

 自分のミスに気付くと、気持ちの高ぶりも涙も落ち着いた。

 個室を出て鏡の前に立ち、情けない自分の顔をペシペシと叩く。

 とにかくコーヒーの件は謝ろう。


「……ぁ」

「大丈夫ですか?」
 カウンターデスクの前には宗方さんが立っていた。

「すみません……もしかしてお待たせして」

「いいえ、それはお気にせず」

「申し訳ありませんでした。私、専務にコーヒーのことを謝らなければいけませんね」

「コーヒーはマシーンが淹れたのに?」
 宗方さんは首を傾げる。

「正直理不尽だとは思いましたけど、私も気遣いが足りませんでした。専務がコーヒーを飲み残していることに気づきながら、何もしませんでした。好みを聞くとか、何かしかすべきでした。申し訳なかったです」

 少し間を置いてから宗方さんはゆっくりと口を開いた。
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