政略夫婦の愛滾る情夜~冷徹御曹司は独占欲に火を灯す~
 自分には無縁の、専務にとって大切な人用のソファーに、こんな風に泣き腫らしてぼんやりとした頭を抱えている自分が腰を掛けている。
 
なんだか奇妙で、自分が自分ではないような変な気分だ。

 少し遅れて、向かいのソファーに須王専務がゆっくりと腰を下ろした。

「あの」と、言いかけた私の声を須王専務の声が遮った。

「すまなかった」

「あ、……いぇ、私が」「帰国してからずっと、気持ちの余裕がなかった。と言うのは言い訳だが、もう少し君の立場を考えるべきだった」

 また言葉を遮られた。

「わ、私こそ、コーヒーひとつ満足に出せなくて本当に申し訳ありませんでした」

「いや、あのことは忘れてくれ。まさか君がいるとは……ほんとに申し訳ない」

 須王専務は、首を左右に振りながら指先を額にあてて俯いた。

 喉ぼとけが辛そうに上下する。ついさっきまであったはずの結界もなく、まるで傷ついているように見える。 

「専務? あの、どうぞ、私なら大丈夫ですから」
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