政略夫婦の愛滾る情夜~冷徹御曹司は独占欲に火を灯す~
 なんだか気の毒な気もして、少し身を乗り出して重ねて言った。

「本当に大丈夫ですから」

 ゆっくりと顔を上げた専務は、ハッとするほど憔悴して見えた。

「本当に?」

「はい。ほんとうに」

 全力で微笑んだけれど、専務はまた左右に首を振る。

「大丈夫じゃないだろう。そんなに泣き腫らした目をして」

(えっ!)

 は、恥ずかしい。

 とっさに両手で顔を覆ったけれどもう遅い。目が腫れぼったいのは、トイレの鏡で見たから自分でもわかっている。

「あっ、こ、これは。あの」

 気まずい。

 指の間から見ると、専務はジッと私を見ていた。

 うっと息を飲む。万事休すだ。

 なるようになれと開き直るしかない。

「私、思い知ったんです。だめだなぁって。辞めて色々考え」「ちょ、ちょっと待ってそれは困る!」

 また言葉を遮られた。それも、ものすごい勢いで。

「いえ、でも。私」

「違う。君は仕事ができる。速水部長のお墨付きだ。俺が、その、俺が指示を間違えて。とにかく今後は宗方がちゃんと君の能力を生かせる仕事を」
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