政略夫婦の愛滾る情夜~冷徹御曹司は独占欲に火を灯す~

「あー、落ち着くまで大変だなぁ」

 隣の席の椅子が軋んだ音を立て、先輩の咲子(さきこ)さんが、大きく伸びをした。

 退職した彼女のあとを埋めるべく派遣社員が増員されて、指導を任されたのが咲子さんだ。勤続二十年のベテラン女子の彼女は、人当たりのよさと無駄のない的確な指示に定評があり、決まって新人の窓口になる。

 でもその間、自身が受け持つ仕事が減るわけではないので、当然のことながら忙しい。

「大丈夫ですか? 何かあれば言ってくださいね。何でも手伝いますから」

「ありがとう。でも、部長の仕事は大丈夫なの?」

「大丈夫ですよ! 部長にも先輩の手伝いを優先するように言われていますから」

 私も入社当時から咲子さんにお世話になってきた。恩返しとばかりに満面の笑顔を向けると、咲子さんはホッとしたように肩を落とす。
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