政略夫婦の愛滾る情夜~冷徹御曹司は独占欲に火を灯す~
 第一も第二もみんな断っているし、それを知っているはずなのに。

「行く理由がないじゃないの」

 今頃このメールを見た加郷が笑っているだろう。

 ぶつぶつ文句を言いながら、いつものように申し訳ありませんと返事を返していると、扉が開いて須王専務が出てきた。

 ムッとしている顔を見られてしまったかと、私の慌てぶりがおもしろかったのか、専務はクスッと笑う。

「仁がバーをオープンさせた。青扇の卒業生が集まるけど一緒に行くか? 土曜の夜だけど」

(なんですって?)

「は、はい! い、行きたいですっ。もちろん!」

 クスッと笑った専務は、視線を落として怪訝そうな顔をする。

「手、どうかしたのか?」

 見ていたのは私の左手の人差し指に貼った絆創膏。

「ああ。これは、書類を綴じている時に紙で切ってしまって」

 冬は指も紙も乾燥しているせいか、慌てているとやらかしてしまうのだ。ほんの少し血が滲んでいる。たいした傷じゃないのに。

 何も考えずに顔を上げると、専務の顔が曇っている。心配そうにじっと私の手を見ていた。

「大丈夫なんですよ。たいしたことはないんですけど、書類を汚してはいけないから念のために」

「そうか」

 加郷にも『大丈夫か?』と絆創膏をジッと見られた。そんなに目立つかしらと何気にさすっていると、「花柄の絆創膏……」と専務が呟く。
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