政略夫婦の愛滾る情夜~冷徹御曹司は独占欲に火を灯す~
「昔、学園で昼寝をしている間に、誰かが俺の手の傷に貼ったことがあったな」
「花柄の絆創膏を、ですか?」
「ああ、懐かしい想い出だ」と笑って専務は行ってしまったけれど、私の方は肝が冷えた。
(私ったら、なんてことを)
貼ったのは、多分私。
あの時はまだ、怖いもの知らずだった。
胸躍らせて入学した私の目には、青扇の全てが輝いて見えた。
もともと中学生まではお転婆と言われていたくらい快活だったから、放課後はひとりで探検して回ったりした。
ほどなくして、学園における自分の立ち位置を知り、能天気ではいられなくなったけれど、その頃はまだ毎日がただ楽しいだけ日々。
ちょっとしたいたずら心で、寝ている男子学生の手に花柄の絆創膏を貼った。
確か場所は『薔薇の家』あの時男子学生はテーブルに突っ伏して寝て、顔は見ていないけれど。
あれは須王専務だったのね。
きっとそうだ。
ブルブルっと身震いする。
寝たままだったから良かったものの、起きていたらどうなっていただろう?
(無邪気って、心底恐ろしい……)