意地悪な部長と私
しばらくの間、抱きしめられたまま無言だった。

嫌な無言ではなく、落ち着く無言。


部長の腕の中はとても落ち着く。

今まで起きたことを忘れられそうなくらい。


忘れることはできないだろうけど。


無言を破ったのは部長。


「辛い思いさせてすまない。気づいてやれんくてすまない」


今にも壊れそうな声。

自分をせめているんだって私でも気づくくらいに。


「いいえ。私こそ、部長を裏切ってしまって…すみません…」


どんなことがあろうと、部長以外の人と肉体関係になってしまった。

裏切りと一緒だよね。


なのに私は、自分のことばかりで会いたくて会いに来た。

こんな私なんかと会いたくないよね、部長は。


そう思うと涙が出てきた。

あぁ、嫌われたんだって思ったら…


「裏切られたなんて思ってねぇ」

え?部長…?


「悪いのは俺だ。俺がちゃんと守ってやれなかったから、お前をこんな目にあわせてしまった。本当にごめん」


部長…

そんなことないのに。
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