意地悪な部長と私
「そんなことがあったんです」

「そうか」

「この前行ったレストラン、あそこでグラタンを食べてたんです、私」

「うん」

「私はグラタンが大好きで、いつも迷わずグラタンを頼む。それを優しくママは見ててくれる。あの日もそうでした」

「……」


部長は、黙って聞いてくれた。


「あの日から私は、グラタンを食べられなくなりました。思い出してしまうから」

「そして、このブレスレットも…見てしまうと、ママと婚約者を思い出してしまう。だから、しまっておいたんです」

「そうか、辛かったな」


そう言って、部長は私を抱きしめてきた。

「部長?」

「泣きたいだけ泣け。そして、ちゃんと身につけてあげるんだ。お前の母親がデザインしたブレスレットだろ?」

部長の言葉で私は、子供かのように泣き出した。


それをずっと優しく「大丈夫だ」と言って抱きしめてくれた。
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