初カノの忘れかた
「付き合うまでの話は分かったけど、肝心の付き合ってた時の話は?」

「そこはあんまり面白味がないから。普通に水族館行ったり、映画観たり、ちょっと高めのレストランで記念日をお祝いしたりとかっていう普通のことしかしてないんだよ。」

「じゃあ、中学から大学までって相当長い期間、付き合ってたのに何で別れちゃったの?」
健からの質問に俺は少し間を置いた。

「すれ違いが原因だったのかな。俺が就活で忙しくしている時、ヒナは既に社会人として働いてて。生活リズムや考え方とか金銭面とかが徐々にズレてきちゃって。で、ヒナの心の隙間を埋めていったのが、俺じゃなくて会社の同期の男みたいでさ。俺たちより2個くらい上だったのかな?

同期だけど年上だから、ヒナも最初は仕事で頼っていたらしいんだけど、そのうちに仕事だけじゃなくてプライベートのことでも相談するようになったらしくてさ。
大学生で就活している俺より、年上で職場でも頼り甲斐のあるそいつの方が、安心できるってなっていって、結局、そいつの方が俺よりも気になる存在になっちゃったって言われて。

その別れ話をした日に実は俺、内定が決まってさ。
本当は、『結婚しよう』って話をするつもりだったんだけど、ヒナが急に別れ話をするもんだから、それどころじゃなくなっちゃって。

で、俺も当時は若かったからさ、自分と付き合ってるのに。何年間も付き合って来たのに、好きな人ができたってことは完全に俺の負けだと思って、潔く身を引いたってわけ。

『別れたくない』って言いたかったけど、男の意地?みたいなクソみたいなプライドが邪魔して、『そっか。』って強がってさ、終いには『今までありがと。好きな人と上手くいくと良いね』なんて応援までして余裕ある風を装ってさ。

で、そのまま別れたんだよね。」

俺は、あの時のことを思い出してしまい、少し涙目になっている自分に気付いた。

「なるほどね。で、今となってはあの時に本心を伝えておけば、俺と結婚して欲しいって言っておけばという後悔が残っていると。結婚したいと思うくらいに好きな人だったから、嫌いになって別れたわけでもないから、今もずっと引きずっちゃっているという訳か。」

俺は健の発言に対して、小さく頷いた。

「で、あんたはヒナちゃんと復縁したいとか今でも思ってるの?」
朱音がつまみを食べながら聞いてきた。

「いや、それは無いよ。風の噂で結婚してるって聞いたしね。」

「結婚してなかったら?」

「結婚してなくても復縁したいとは思わないよ。一度、別れてる以上、たとえ復縁したとしても、いつかまた同じような理由で別れることになると俺は思うからさ。」

「なら、もうヒナちゃんのことは綺麗さっぱり忘れられるでしょ。」

「俺だって常に意識している訳じゃないさ。でも、女性と付き合っている時、本当にふとした瞬間にヒナのことが思い出されるんだよ。」

「私には分からないわ。」
朱音はこれ以上は堂々巡りになって面倒臭くなるだけだと思ったのか、急に興味をなくし、ボトルに残っていたワインを全部、自分のグラスに注いだ。
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