振り向いて欲しい
「サーヤマンの子供なの?」

「うん」

「何歳?」

「1歳かな」

無言の時間が訪れる…

「田中さーん、田中哲平くーん」とお会計から呼ばれ私は立ち上がり、じゃ、と声をかける。

田中?田中のままなのか?

ここで、じゃ、と別れるなんて出来ない。
俺はお会計が終わるのを待ち病院の外で話そうと追いかけた。

「サーヤマン、待って!」

ビクッとする私をよそに声をかけてくる。

「話したいんだ。今から話せない?」

「哲平が今日退院したので話せない。もう帰るので…さようなら」

振り払うように帰ろうとする私を高坂くんは離さない。

「なら家まで送るよ。子供を抱えてじゃ大変だろ」

「タクシー乗るからいいの。それじゃ。」

「そう言うわけには行かない。俺が送る。俺はずっと彩綾を探してた。」

探してた?どういうこと?
でもこのままじゃダメ。
帰らなきゃ、とタクシー乗り場へ向かおうとするとさっと哲平を抱き抱えられてしまう。

目線が高くなった哲平はキャッキャッと喜び声を出す。
あー、私に似てるかと思ったけどこの子はこんなに高坂くんに似ていたのね…喉の奥が疼いてくる。

「ちょっと。哲平返して。」

「哲平くんかー。可愛いなぁ。嫌がってないぞ。なー、高くていいよなー。」

高坂くんがあやすとまた声をあげて喜ぶ。

「愛想のいい子だなぁ。可愛いなぁ。」
かわいい、かわいいと繰り返され私は涙が溜まってきた。こっそり涙をぬぐい、タクシーで帰ると言うが受け入れてもらえずそのままあの黒いRV車に乗せられてしまった。

家を伝えるしかなく目の前まで送り届けてもらってしまった。

「また連絡するから、今度こそ出てほしい。」とお願いされ私は頷くしかなかった。
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