振り向いて欲しい
翌日スマホのアプリに通知が来ていた。
約束したので開かないわけにもいかない。でも今見る気にもなれない…。
その日の夜やっと見た。
既読がついたのを待ち構えていたかのように着信がきた。
出ないわけにも行かず通話ボタンを押した。
「よかった、サーヤマンがまた出なければ明日家に行くつもりだった。」
「……」
「あの後何度電話しても出てくれなくて焦った…。ちょうど配置換えがあってサーヤマンがいた病院からこの前会った病院のエリアに移動になったんだよ。だから病院にもなかなかいけなくてさ。変わったばかりだから得意先への挨拶回りで忙しくて…なんて言い訳だな。電話に出てもらえなくてどんな顔して会いにいったらいいのか分からなかった。でも…やっぱり会いたくて、忘れられなくてマンションまで行ったんだ。そしたらすでに引っ越した後でさ。慌てて病院の調剤部に行ったけど辞めたと言われどうしていいかわからなかったんだ。」
「……」
「聞いてる?」
「…うん…」
「サーヤマンはあの後結婚したわけじゃないんだよな?昨日田中って呼ばれてたよな。」
「……」
「俺は高校の頃から彩綾のことが気になってた。あの頃から好きだった。だから再会できて本当に嬉しかった。」
「高校のころから?」
「そう。あの時にも言ったけど彩綾のコロコロ変わる表情に俺は目を奪われた。わざと教科書も忘れてた。」
「…そんな…」
「今言わないと次はないだろ。もう後悔したくないんだ。再会して、前と変わらない彩綾を見て俺の中の深い部分が彩綾を必要としてるって感じたんだ。飲みに行った時も、横浜に行った時も一緒にいてこんなに気持ちが楽だったことはない。自分が自分でいられる気がしたんだ。会話なんてなくても分かり合えてるような気がしてたんだ。だから彩綾が欲しくなり求めてしまった。遊びなんかじゃない。」
「私は…遊びなのかと思ってた。何も言ってくれないし、同級生だから私に気を遣ってくれてるのかとずっと思ってた。」
「遊びじゃない。あの時好きだと伝えられなかったことをどれだけ後悔したか…。」
「遊びなのかと思ったから…電話で、ついごめんな、なんて言われたらと思って出られなかったの。怖かったの。」
「高校の頃からずっと彩綾だけを見てきた。彩綾以外名前で呼んだやつは高校にいないぞ。気がつかなかったのか?」
「私呼ばれてないけど…」
「サーヤマンって言ってただろ。俺だけの呼び名でさ。」
「そんな…。そんなのわからなかったよ。」
「鈍いよな。周りのやつはなんとなく気づいてそうだったぞ。」
「だから私は高坂くんからの離れるよう忠告されたんだね。」
「…どういうこと?」
「いいの。もういいの。」
「よくない!」
「…でもその忠告のおかげで私にはかけがえのない友達ができたの。だから悪いことばかりじゃないの。」
「…なんだか急によそよそしくなって俺は何かしたのかな、とずっと思ってたんだ。でも話しかけられなくて…。あの頃の俺は周りとの協調ばかりで一番大切なことがわかってなかった。自分から話になんでいけなかったんだろう。挙句図書室で彩綾が勉強してるのを見て俺も頑張らないと、と勝手に励まされてたりしてさ。」
「そんな…。」
「俺の原動力だったんだよ。1番のきっかけは熱出した時だけどな。」
「私だって高坂くんがそばにいると癒されてたんだよ。いつでも声をかけてほしいなって思ってた。教科書見せるのが楽しみだった。」
「そうだったのか。」
「だからこそあの日のことを謝られたら私は立ち直れないと思って連絡をたったの。」
「いつでも同じこと考えてたんだな。同じ方向向いてたのにタイミングがずれてたんだな。俺が再会した時にすぐに伝えてればこんなに遠回りしなくてよかったんだ。ごめん。」
「高坂くんだけじゃないよ。私は高坂くんが優しいからこのまま優しさに甘えていたら今の関係を崩さずに済むのかも、と心のどこかで思ってた。好きだからそばにいたかったの。」
「なぁ、俺たちの絡まっていた糸が解けたんだ。聞いてもいいか?哲平くんは俺の子だよな?」
「うん…あの後妊娠に気がついたの。でも高坂くんの困る顔が浮かんできて言えなかった。私は大好きな高坂くんの子供が欲しいって思っちゃったの。勝手に産んでごめんなさい。」
「いや、産んでくれてありがとう。哲平くんを抱いた時に心が温かくなったんだ。例えようのない、身体の芯から震えるような気持ちになった。」
私はもう涙が止まらなくなっていた。とめどなく流れる涙に嗚咽までもれてきた。
「彩綾、泣き過ぎ…。会いたい。彩綾に会いたい。」
「うん。うん。私も会いたい。」
約束したので開かないわけにもいかない。でも今見る気にもなれない…。
その日の夜やっと見た。
既読がついたのを待ち構えていたかのように着信がきた。
出ないわけにも行かず通話ボタンを押した。
「よかった、サーヤマンがまた出なければ明日家に行くつもりだった。」
「……」
「あの後何度電話しても出てくれなくて焦った…。ちょうど配置換えがあってサーヤマンがいた病院からこの前会った病院のエリアに移動になったんだよ。だから病院にもなかなかいけなくてさ。変わったばかりだから得意先への挨拶回りで忙しくて…なんて言い訳だな。電話に出てもらえなくてどんな顔して会いにいったらいいのか分からなかった。でも…やっぱり会いたくて、忘れられなくてマンションまで行ったんだ。そしたらすでに引っ越した後でさ。慌てて病院の調剤部に行ったけど辞めたと言われどうしていいかわからなかったんだ。」
「……」
「聞いてる?」
「…うん…」
「サーヤマンはあの後結婚したわけじゃないんだよな?昨日田中って呼ばれてたよな。」
「……」
「俺は高校の頃から彩綾のことが気になってた。あの頃から好きだった。だから再会できて本当に嬉しかった。」
「高校のころから?」
「そう。あの時にも言ったけど彩綾のコロコロ変わる表情に俺は目を奪われた。わざと教科書も忘れてた。」
「…そんな…」
「今言わないと次はないだろ。もう後悔したくないんだ。再会して、前と変わらない彩綾を見て俺の中の深い部分が彩綾を必要としてるって感じたんだ。飲みに行った時も、横浜に行った時も一緒にいてこんなに気持ちが楽だったことはない。自分が自分でいられる気がしたんだ。会話なんてなくても分かり合えてるような気がしてたんだ。だから彩綾が欲しくなり求めてしまった。遊びなんかじゃない。」
「私は…遊びなのかと思ってた。何も言ってくれないし、同級生だから私に気を遣ってくれてるのかとずっと思ってた。」
「遊びじゃない。あの時好きだと伝えられなかったことをどれだけ後悔したか…。」
「遊びなのかと思ったから…電話で、ついごめんな、なんて言われたらと思って出られなかったの。怖かったの。」
「高校の頃からずっと彩綾だけを見てきた。彩綾以外名前で呼んだやつは高校にいないぞ。気がつかなかったのか?」
「私呼ばれてないけど…」
「サーヤマンって言ってただろ。俺だけの呼び名でさ。」
「そんな…。そんなのわからなかったよ。」
「鈍いよな。周りのやつはなんとなく気づいてそうだったぞ。」
「だから私は高坂くんからの離れるよう忠告されたんだね。」
「…どういうこと?」
「いいの。もういいの。」
「よくない!」
「…でもその忠告のおかげで私にはかけがえのない友達ができたの。だから悪いことばかりじゃないの。」
「…なんだか急によそよそしくなって俺は何かしたのかな、とずっと思ってたんだ。でも話しかけられなくて…。あの頃の俺は周りとの協調ばかりで一番大切なことがわかってなかった。自分から話になんでいけなかったんだろう。挙句図書室で彩綾が勉強してるのを見て俺も頑張らないと、と勝手に励まされてたりしてさ。」
「そんな…。」
「俺の原動力だったんだよ。1番のきっかけは熱出した時だけどな。」
「私だって高坂くんがそばにいると癒されてたんだよ。いつでも声をかけてほしいなって思ってた。教科書見せるのが楽しみだった。」
「そうだったのか。」
「だからこそあの日のことを謝られたら私は立ち直れないと思って連絡をたったの。」
「いつでも同じこと考えてたんだな。同じ方向向いてたのにタイミングがずれてたんだな。俺が再会した時にすぐに伝えてればこんなに遠回りしなくてよかったんだ。ごめん。」
「高坂くんだけじゃないよ。私は高坂くんが優しいからこのまま優しさに甘えていたら今の関係を崩さずに済むのかも、と心のどこかで思ってた。好きだからそばにいたかったの。」
「なぁ、俺たちの絡まっていた糸が解けたんだ。聞いてもいいか?哲平くんは俺の子だよな?」
「うん…あの後妊娠に気がついたの。でも高坂くんの困る顔が浮かんできて言えなかった。私は大好きな高坂くんの子供が欲しいって思っちゃったの。勝手に産んでごめんなさい。」
「いや、産んでくれてありがとう。哲平くんを抱いた時に心が温かくなったんだ。例えようのない、身体の芯から震えるような気持ちになった。」
私はもう涙が止まらなくなっていた。とめどなく流れる涙に嗚咽までもれてきた。
「彩綾、泣き過ぎ…。会いたい。彩綾に会いたい。」
「うん。うん。私も会いたい。」