竜王様、ご飯の時間です and more ! 〜竜王様と転生メイドのその後〜
「だぁぁぁぁ……。午前がまるまる歴史で潰れた。しかもまだ半分もいってないってどうなの」
 講義を終えてフォーンさんがいなくなった隙に、机に突っ伏しました。久しぶりの勉強で、脳みそメルトダウンしそう。開いたは知恵熱決定コースだわ。ほんと、お妃教育って、大変だなぁ。しばらくこういう勉強が続くのか……いやこれ、いつまで続くのよ? 見えない先行きに、またまた憂鬱になります。
 ただのメイドなら、いや、メイドだった頃は、この時間くらいは竜王様達のランチタイムなので大忙しの厨房の片隅で、私は賄いを作って使用人さんたちに食べてもらって……と、慌ただしい時間を過ごしていたはず。こういう勉強よりああいう生活の方が向いてるんだけどなぁ、私。
 大変だけど充実していた以前の生活に思いを馳せていると、ウィスタリアさんが現れました。
「お待たせいたしました。昼食の時間でございます」
「お腹減ってきたところだったんです」
「では、ダイニングに参りましょう」
「やっぱり賄いじゃないんですね」
「もちろんでございます」
 またダイニングで寂しくおひとり様か。……はぁ。いや、ぼっちご飯はどちらかというと平気な方だけど、メイドさんとかがいるのに誰も相手してくれなく孤独に食べるのって、地味〜に堪えるんだよなぁ。大人数いるのに孤独って、これいかに!?

 ダイニングで席に案内されると、そこにはすでにカトラリーが綺麗に並べられていました。ん? でもこれ、フルセットじゃない? 明らかにランチ程度の軽い食事では使わない数が並んでるんだけど?
「あの〜。カトラリーの数が多いように思うんですけど……」
「はい。正餐と同じ数だけ用意しております」
 恐る恐るウィスタリアさんに聞いたら、さも当然のように返ってきました。ん〜でもなぁ……竜王様たちの昼食ですら、こんなに整えてなかった気がするんだけど。
「フォーンからお聞きになっておられると思いますが、これから昼食・夕食は、マナーの練習時間といたします。昼食は練習、夕飯が実践とお考えください」
「えぇ……」
 そうだ、今朝フォーンさんがそう説明していたわ。ランチはマナーのレッスン兼ねてどーたらこーたら。マナーレッスンはわかるけど、お昼から晩御飯の量を食べてたら、確実に太るよ。メイドとして動き回るわけでもなく、ひたすら座って勉強しかしないし。
「ランチに夕飯並みの量食べたら、晩餐に差し支えます」
「ご安心ください。もちろんランチ用に量を調整しております」
「あ、そうですか」
 それなら体重増加を考えずに食べられますね。

 そうこうしているうちに最初の料理が運ばれてきました。ひと口サイズのお料理が載ったアミューズです。めっちゃ美味しそう! トープさんの本気のお料理だから、間違いないよね。心の中で合唱しつつ「いただきます」と呟き、カトラリーを手に取りました。確かカトラリーは外から使っていくまず。こんな私でもギリ知ってるお食事マナーは、前世、友達の結婚式にお呼ばれした経験オンリー。正式に習ったわけじゃないから、正直なところ不安です。
「カトラリーの使い方はご存知のようですね」
「あ、はい。初歩的なことだけですが」
「知っているのと知らないのとでは大きな違いがございますよ。しかし姿勢がいけませんね」
「姿勢?」
「はい。しっかり背筋を伸ばし、脇は軽く閉めて——」
「は、はいぃぃぃ!」
 背筋から、カトラリーの持ち方、優雅に見える使い方など、事細かに注意されました。

 ウィスタリアさんが言っていたように、順番こそフルコースと同じだけど、量がハーフもしくはひと口のランチアレンジコースが一通り終わる頃には、私はぐったりと疲れてしまいました。
「お食事ひとつとっても大変……。インディゴ様のお嫁さんになる人は大変だぁ」
「なぜインディゴでございますか?」
「なんでもありません!」
 きっとお嫁さんには優しいお姑さんになると思います!
「しかし、美味しいはずなんだけど食べた気がしません」
「慣れてしまえば料理を堪能することができますよ。頑張りましょう」
「はい」
 慣れた仕草で食事をしながら「とても美味しゅうございますわ、おほほほほほ」なんて優雅に微笑む日は来るのでしょうか?
< 25 / 168 >

この作品をシェア

pagetop