桜が散る恋…儚く
ある高校2年生になった春のことだった。
桜が舞い散り、風が強くて髪がボサボサになった日、私は年上男性に恋をした。
「累(るい)。いつものカフェ行くよね」
友達がカバンを肩にかけて、私に言ってくる。
「行く行く。今準備するから」
私はバタバタと急いで、友達に言いながら、今日使った教科書類をカバンに入れていた。
カバンに入れた私は、友達の元へ駆け寄った。
いつものカフェとは、高校1年生から通っていて、学校から近いことから徒歩5分で行ける。
大体、学生達が立ち寄ることが多く、溜まり場になっている。
「てんちょー。いつもの下さい!」
私の友達は、元気いっぱいな声で手をあげて店長さんに言う。
「はいよ」
「うわ、ありがとう。もう用意してくれたんだ」
「毎日来られたら、メニューくらいすぐ分かるからね」
店長さんは困ったような嬉しいような複雑な笑顔で私たちに言って、返答した。
「あ、そうだ。今日からうちに入った子いるんだけど。あなた達に紹介するわね。今あそこでオーダー取ってる子」
店長さんは接客を終えたのを見計らい、呼び出していた。
「葛西(かさい)。この二人組は嫌でも毎日来るから覚えておけよ」
店長さんはオーダー取っていた子の肩を組んで、ヘラヘラしながら言っていた。
「それお客に向かっていうこと?!てんちょー」
友達は少しムカッとしたのか眉を上げていた。
私はまあまあと言い放ち、友達は宥めた。
「この子は葛西直斗(かさいなおと)くん。大学2年生。若いよねー」
店長さんは肩を組んだまま、私たちに言う。
「はじめまして。葛西です。何かあったらいつでもここにきてください。ってか、二人組の方が若いですから」
葛西直斗さんは、真面目な顔で私たちに自己紹介をした。
「まぁ、そうだね。俺としてはみんな若く見えるけど」
店長さんは肩を組んだのを離して、頭に両手を組んで言う。
「よ、ろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
私たちは葛西直斗さんに挨拶をした。
「こちらこそ」
と葛西直斗さんは満面な笑みで返してくれた。
私は噛みながらも返した言葉に嬉しさがありながらもその笑顔にノックアウトされてしまった。
私は葛西直斗さんが去る後ろ姿を見ていた。
「あのさ、私、あの人に恋したわ」
私は頬杖をついて、言う。
「えー!!素敵だけど…。どうするの?」
目を丸くして私を見て、答えていた。
「連絡先、渡す。ちょうどルーズリーフあるし。半分に切ってとペン出して…」
私はカバンからルーズリーフとペンを出した。
「…累はやると思ったら行動するのすごいね。羨ましい」
友達は羨ましそうに私に向って言った。
「何言ってんの。私よりコミニュケーション力高い方が羨ましいよ」
私も友達を褒めた。
本当だと思ったから。
うまく人と話せないことがあるので、いつも黙ってみてしまう。
けど、やりたいと思ったら行動することを心がけている。
人と話すことも少しずつ挑戦している。
たわいのない話を終えると、私は会計するスペースに行き、葛西直斗さんと向き合う。
「あの、もうすぐ…私の苦手な数学テストあるので教えて頂けませんか?私の連絡先です」
私は早々と会計を済ませた後、ルーズリーフの裏にかかれた連絡先を渡した。
すると、葛西直斗さんは
「いいよ。じゃあ、明日どう?」
と言われて、後日会うことになった。
友達に話すと、自分のことのように喜んでくれた。
それから、葛西直斗さんは勉強を見てくれた。
毎日バイトが終わったら、18時まで1時間見てもらった。
葛西直斗さんの顔が近くにあって、見ているだけで恥ずかしいような嬉しいような照れがあった。
お互い教科書をどれだ?って覗く時、目があって目を丸くした。
だけど、葛西直斗さんはいつもの笑顔で数式について詳しく話してくれた。
話すだけで楽しかった。
テスト当日。
私は無事苦手な数学のテストをクリアして、急いでいつものバイトの時間帯に行くと、葛西直斗さんはお客さんにあの眩しい笑顔で接客をしていた。
その様子を見ながら、カバンを右肩にかけて、一目散に葛西直斗さんに向って、ドアを開けようとした瞬間、仲良さげに話している女性がいた。
私は呆然と立ちつくしていた。
すると、葛西直斗さんは私に気づいて私を呼んでいた。
「累ちゃん。どうだった?テスト」
「く、クリアしました」
「よかったね」
「あ、ありがとうございます」
私は隣にいた女性に目線をうつすと、気づいたのか葛西直斗さんは声を発した。
「あ、この人は俺の彼女」
私が見たことないよう笑顔で私に紹介してきた。
「……わ、私、用事があるので」
葛西直斗さんは、何か声をあげていたが、聞こえなかった。
私は走りながら、目から涙が溢れていた。
好きだった人がまさかの彼女持ち。
モテるなんて分かっていたけど……
私が初めて好きだと思えたんだ、やっと…
どんな状況でもよかった。
だから、数学教えてくださいと言った。
ただ隣で話して、それから距離をつめていこうと思ったのに…
苦しいよ、好きなのに好きだけじゃ何も出来ない。
私たちは、最初はお客と従業員だったけど、次は先生と生徒みたいな関係性だった。
友達でもない。
恋人以上でもない。
年上の先生みたいな存在でお兄さん。
先生と生徒みたいな関係でも、友達じゃなくても恋人じゃなくても…
お兄さんじゃなく、心から異性として好きだった。
私はその日のことは忘れられない。
彼の表情と笑い声が…耳から聞こえてきそうだ。
暖かい風が優しく桜を降らせていたのから、
強く桜が舞い散っていた。
今では大切な叶わなかった恋。
今も尚、胸にしまって、大切に扱っている。