桃色溺愛婚 〜強面御曹司は強情妻を溺愛し過ぎて止まらない〜
確かに子供の頃の私は今と違いどちらかと言えば行動力のある子だった。父や母からも当時の私には手を焼いたと何回も笑い話にされてしまうほどに。
そんな私があまり記憶にないようなことも、年上の匡介さんは覚えていたりするの……?
「杏凛のことならなんでも覚えている。君が七歳の夏、親戚の集まりで退屈してしまい庭の木に登って落ちたことも、九歳の雪の日に自分を雪だるまにしようとして凍えかけたことも。それに……」
「も、もういいです! もう十分分かりましたから!」
なんでそんなことまでしっかり覚えてるの? しかも私の子供の頃の黒歴史ばかりを選んだように話すなんて、匡介さんは意地悪だわ。
木に登ったのは綺麗な蝶が止まっていたからだし、雪だるまになろうとしたのだってちょっとした好奇心だった。後で両親にめちゃくちゃ怒られてしまったけれど。
そう言えば木から落ちた時や雪で凍えかけた時……私を助けてくれたのは誰だった?
「いつだって君はそんな調子で、いろんな意味で危なっかしかった。だから、俺は……」
「匡介さん?」
ほんの一瞬、何を思い出したのか匡介さんの顔が曇ったような気がした。けれど彼はすぐに顔を上げるといつもの強面な無表情に戻りアイスティーのカップに口をつけた。
そんな彼の態度にモヤモヤしたものを感じる、あの新婚初夜と同じように……匡介さんは何かを私に隠してるんじゃないかって。
……もしあの夜の事も含めて、この人を問い詰めたら私たち夫婦はどうなるのだろうか?