桃色溺愛婚 〜強面御曹司は強情妻を溺愛し過ぎて止まらない〜
「そろそろ出ようか、俺も少し行きたい店がある」
匡介さんはそう言って立ち上がり、二人分のカップが乗ったトレイを返却口へと持っていく。自分からこの話はしないでおこうと言ったのに、ついムキになってしまったかもしれない。
私も立ち上がり彼より先に店の出口へと向かう、さっきまで晴れていたのにいつの間にか曇り空へと変わっていた。
「予定を済ませて、早めに帰った方がいいのかもしれないな」
「そうですね、この時期は天候が変わりやすいですし……」
いつの間にか隣に立っていた匡介さんも空模様を見てそう呟いた。こうやって見上げるとやっぱり匡介さんは強面だけど素敵な男性だと思う。
長身で服の上からも分かる逞しい体躯、目つきは悪いがキリっとした男らしい顔立ちに振り返る女性も少なくない。
「……杏凛、何か俺の顔についているのか?」
「いいえ、何でもないんです。それより早く行きましょう」
気付かないうちに匡介さんを見つめてしまっていたらしく、慌てて彼から視線をそらした。いっそ何かついていると嘘をついて、取ったふりでもしておいた方が自然だったかもしれない。
誤魔化そうと早足で歩きだすと後ろからグッと手首を掴まれ振り返る、彼の手が手首から手のひらへと移動して……
「杏凛、目的の店はこっちだ」
匡介さんはそう言うと優しく手を引いて歩きだす。いつもそう、この人は言葉より態度や行動で私を大切にしてくれる。それでも私はまだ……不安でしょうがないの。