桃色溺愛婚 〜強面御曹司は強情妻を溺愛し過ぎて止まらない〜
「そんな事より早く! 奥さんを紹介してちょうだいよ、惚気だけならもう十分聞かされたんだから」
「うるさい、そうやって余計なことまでペラペラ話すところが昔から嫌なんだ。少しは奥ゆかしさを————」
明るい話し方をする馬場さんは匡介さんにも気軽に話して、そんな彼女に彼も遠慮のない言葉を返す。まるで私の知ってる匡介さんとは別人のように見える。
そんな二人の様子にばかり気を取られていたせいで、私はこの時の馬場さんの言っていた言葉をきちんと聞いていなかった。
「あー、はいはい。もう十分その話も聞かされてお腹いっぱいよ、それよりも……初めまして、私は馬場 果穂浬っていうの。これからよろしくね」
私を隠すように立っていた匡介さんを強引に押しやると、彼女は笑顔で私に挨拶してきた。
やや面長で少し吊り上がり気味の奥二重、きりっと整えられた眉に余裕の笑みを浮かべる口元を見れば嫌でも彼女が自信に満ち溢れた女性だとわかる。
「初めまして。鏡谷 匡介の妻で、杏凛ともうします。その、いきなりお邪魔してすみません……」
「いいの、いいの! 気にしないで。それよりほら、こっちについて来てみてよ杏凛さん!」
いきなり手を握られたかと思うと、女性にしては強い力で奥の方へと引っ張られていく。焦って匡介さんを振り返ると、彼も慌てて馬場さんに声をかけてくれたのだけど聞く耳持たない様子で……
「おい馬場、妻に強引な事はしないって約束だっただろ?」
「あらあ、過保護な旦那は嫌われるわよ? ちょっとくらい大丈夫よねえ、杏凛さん」
そう言われると「いいえ」とは言えず、曖昧に頷いて馬場さんの後をついて行った。