桃色溺愛婚 〜強面御曹司は強情妻を溺愛し過ぎて止まらない〜
「これ、ちょっと見てくれる?」
差し出されたのはシンプルな黒のパスケース、だけど何となく馬場さんのイメージには合ってないような? そう思いつつ彼女から受け取ってみたのだけど……
「あの、これが何か……?」
電子カードの入れられたパスケースにおかしなところは無さそう、裏表と何度か確認し馬場さんに尋ねてみる。すると彼女はクスッと笑って電子カードをトントンと指さして見せた。
「アイツが忘れ物するなんて珍しいのよ? よほど大事なものなのか、わざわざ休日に取りに来るなんてね。ちょっと興味がわいて覗いちゃったの、ごめんなさい」
そう言われてパスケースからカードを取り出すと、同時に何か小さな紙がヒラリと出てきて床に落ちる。慌てて拾って見てみると、驚きでうまく声が出せなくなる。
小さな四角の紙に写っているのは私だった、それも最近のものではなく二~三年は前のもの。こんなものをどうして匡介さんが……?
「私ね、匡介と結構付き合い長いんだけどさ。驚いちゃった、こんなことする男だなんて思わなかったもの。よっぽど匡介に愛されてるのね、杏凛さん」
「私が、匡介さんに……?」
今見たもの、馬場さんから言われた言葉が信じられなくて、ぼんやりと視線を彷徨わせてしまう。いつも過保護な夫だと感じながらも、匡介さんは私のことを病気で放っておけない妻だと思っているのだとばかり。
でもこの写真が、馬場さんの言葉が、それだけじゃないんだと私に気付かせる。
「あの、本当に匡介さんは私のことを……?」
「ふふ、それは本人に確認してみるのね。でも、私が杏凛さんにこれを見せたことは内緒よ?」