桃色溺愛婚 〜強面御曹司は強情妻を溺愛し過ぎて止まらない〜
せっかく作った朝食を食べる気にもなれず、私はソファーへと座り込むとボーっと壁掛け時計の時間を見つめていた。時計の針はまだ七時前を指しているというのに……
まさか結婚初日からこんな風に家で一人きりで過ごすことになるなんて、自分が妻という立場以外何の価値もないように思えてくる。
カチャリ……ガチャ
玄関の扉が開いた音がして、私は立ち上がり急いでそちらへと向かう。匡介さんが戻ってきたのかもしれない。そう、思ったのだけれど……
「あら、もう起きていらしたんですか? おはようございます、杏凛お嬢様」
「寧々……貴女、なぜこんな朝早くに?」
玄関の扉を開けたのは使用人の寧々だった、彼女には鍵を預けてあるとは聞いていたし驚くほどの事ではなかったけれど。寧々は私より少しだけ年上のしっかりした女性で、とても頼りになる。
「昨日の夜遅くに、旦那様から頼まれまして。ああ、今日からはお嬢様ではなく奥様とお呼びしなければいけませんね」
寧々に奥様と呼ばれ複雑な気持ちになった。今の私に籍が入ったこと以外で匡介さんの妻らしいことは何一つ出来ていないから。多分その事を寧々も知ってるはず。
「昨日? 匡介さんは何て……?」
妻である私には何も言わずに出て行っているのに、使用人の寧々には連絡をしているなんて。その事に少なからずショックを受けてしまう。