桃色溺愛婚 〜強面御曹司は強情妻を溺愛し過ぎて止まらない〜
「ありがとう、俺は杏凛が淹れてくれるこのコーヒーを飲むと作業が捗るんだ」
テーブルに置いたコーヒーのカップをチラリと見て、匡介さんは私とは視線を合わせないままそう言った。
もしかして私にそう伝えることに照れているのだろうか、匡介さんは。そんな無理しなくてもいいのにと思う反面、言葉にしてくれて嬉しいとも感じてしまう。
「そうなんですね、私の淹れるコーヒーで よければ何杯でもどうぞ」
「ああ、君も早くソファーに座るといい」
匡介さんにそう言われて、私も彼から少し間を空けてソファーへと腰を下ろした。リビングのソファーは二人で座っても十分な余裕がある。
それでもこうして二人だけで座るのは、少し彼を意識してしまう。匡介さんの方は何も気にせずタブレットの操作に集中しているようだけど。
「雨、強くなってきましたね……」
音楽やテレビもほとんどつける事が無い私達、シンとしたリビングに響くのは先ほどよりも勢いを増した雨音だけ。
「そうだな、もうすぐ雷雨になるんだろう。早めに仕事を切り上げておいて正解だった」
さして喜んでいるとは思えない感情の読めない話し方だけど、それももう慣れている。こうして早く帰ってきてくれただけでも今の私には有り難かった。
「雷雨……」
自分が雨や雷が苦手になった理由を覚えてはいない、昔はそうでなかったはずなのに気付いたらもの凄く恐怖を感じるようになっていた。
「不安を感じているなら俺が君の傍にいる、だからそう心配しなくていい」
「匡介さん……」
当たり前のようにそう言ってくれるのは、身内と匡介さんくらいかもしれない。でも本当にこの人の優しさに全部甘えてしまってはいけない。
私たちは……今はまだただの契約夫婦のはずだから。