桃色溺愛婚 〜強面御曹司は強情妻を溺愛し過ぎて止まらない〜
「……今なんて言ったの、匡介さん?」
どうしてそうなるの? 確かにさっきの状況でしっかりと考える余裕なんてなかった。だからと言って、あんなことをその場しのぎのいい加減な気持ちで口にしたりしない。
勇気を出したのよ、私だって匡介さんにちゃんと思っている事を伝えたかったから。それだけだったのに、いつも貴方はそうやって……!
「だから、さっきの事は君は気にするなと……あ、杏凛!?」
「ふざけないでよっ!」
ソファーの端に置かれたままだったクッションを掴んで、思いきり匡介さんに叩きつけた。右手だけでは我慢できず左手でもクッションを掴むと、両手でボフボフと彼を殴り続けてしまう。
こんなに腹が立ったのはいつ以来かもわからない、普段は怒りより悲しみが増さっているから。
だけど今は違う、自分が受け取って欲しい言葉ほど無かったことにしようとする匡介さんに我慢出来なかった。
「私は気にするな? どうしてすぐにそうやって私の言葉を無かったことにするの、私が匡介さんに受け入れてもらおうとするのはそんなに迷惑? 私は、私はただ……」
ぶわっと視界が滲む、頬に触れればその場所を熱い雫が伝い濡らしていくのが分かる。抑えきれなかった感情が、涙となってとめどなく溢れてくる。
「……杏凛、そんな風に泣かないでくれ。君に泣かれたら、俺が傍にいる意味がない」