桃色溺愛婚 〜強面御曹司は強情妻を溺愛し過ぎて止まらない〜
普段は絶対見られないような彼の困った顔も、子供をなだめるかのような優しい声も今の私には届いてこない。
いつも私に優しさばかりくれるのに、どうして匡介さんは何も受け取ろうとしてくれないのよ?
とめどなく溢れてくる涙を手の甲でゴシゴシと拭う。
「何もかも与えられるばかりの妻にどんな意味があるの? 私が匡介さんにしてあげられることは何もない……?」
匡介さんが自分のために私に何かを望んでくれたのは初めてだったから。私に出来る事なら叶えてあげたかった、欲しいと言われれば何をあげても構わないと思った。
なのに……匡介さんは本気にして無いから気にするな、と言ったのよ。
「杏凛、君は……」
戸惑う匡介さんの気持ちも分からないわけじゃない、きっと彼は全て私の為を思って言ってくれている。
けれどそれだけじゃダメなの、このままじゃ私の望む二人にはなれるわけない。今のままじゃ、私達はいつまでも契約関係でしかいられない。
「私ばかり甘やかさないで、匡介さんの我儘も聞かせて欲しいの。本当に私を大切に思ってくれているのなら……貴方と対等になりたい、私のこの願いを聞いてくれないかしら?」
「杏凛……」
匡介さんが持っているクッションをそっと取り上げて、二つをもとの位置に戻す。ほとんど使われることのなかったクッションの形が、面白い形に変わっていたけれど。
「そうか、君はずっとそう思っていたんだな。俺は杏凛がこんなに強い女性だという事も、ちゃんと分っていたはずなのに……」