桃色溺愛婚 〜強面御曹司は強情妻を溺愛し過ぎて止まらない〜


「そうか? だが俺が今、杏凛(あんり)に言えそうな我儘といったらこれくらいしか……」

 だからそれは我儘にならないって言ってるのに、匡介(きょうすけ)さんは欲が無さすぎるのよ。もっと私が困るようなことを言って欲しいのに、それがこの人には伝わらない。
 でも、これを今の匡介さんが心から望んでくれている事なら……

「あの……少しだけでも、いいんですよね?」

 先ほどと違って今はしっかりとした意識のある状態なので、そのまま抱きしめられるのは少し恥ずかしい。
 匡介さんはどう思っているか分からないが、私は冷静な状態でベタベタするのは苦手なのかもしれない。
 それなのに……

「出来るだけ長くがいい。もちろん杏凛が嫌だと思わなければ、の話だが」

「なんでそんな……! それはさすがに我儘よ」

 予想外の匡介さんの発言に慌てて返すが、それが間違いだとすぐに気付く。彼に我儘を言えと言ったのは、私の方だったのだから。

「ああ、これが我儘なのか。それなら我儘でいい、君を出来るだけ長くこの腕に抱きしめさせてくれ」

「匡介さん、貴方こういう時だけ……っ」

 口角を微かに上げるだけの優しい笑み、こんな時にそれを見せるなんて狡いとしか言えない。匡介さんのその笑顔に私は嫌とは言えず……

「分かったわ、匡介さんの気の済むまで抱きしめて。貴方が初めて言ってくれた我儘だから……」

 そう言うと、そっと匡介さんの腕が届く範囲に移動する。そうすることが今の私にできる精一杯だったから。


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