桃色溺愛婚 〜強面御曹司は強情妻を溺愛し過ぎて止まらない〜


「……いいのか、本当に」

 そう言いながらも匡介(きょうすけ)さんは優しい手つきで私の両肩に手を添える。彼はいつだって私の気持ちを優先してくれる、それが何だかくすぐったくて……

「いいんです、ちゃんと心の準備は終えましたから」

「そうか……」

 心の準備だなんて、本当はそんなものしたって意味がないわ。
 匡介さんの温もり、彼の使っているシャンプーの香り、優しく回される腕の力……そのどれもが私の胸を高鳴らせる。
 そうやって発作とは違う心の苦しみを、匡介さんは私に与えてくるのだから。

「緊張するな、思ってよりも……」

「何を今さら、さっきまで何度も私のことを抱きしめていたのに」

 肩に添えていた手をゆっくりと背中へと移動させ私を引き寄せると、その腕に徐々に力を入れ始める。
 さっきと違うのはこの触れ合いが夫婦としてのものである、ということ。お互いが相手を意識している……はずなのだけど。

「君を……杏凛(あんり)を自分の妻として、この腕に抱くことなど無いと思っていたからな」

「……私をきちんと妻として見てくれていないのは、匡介さんの方です」

 最初からお互いに距離を感じる様な結婚生活をしていた。
 私は契約という言葉に囚われ、夫である匡介さんに近づくことが出来なかった。でも匡介さんにも何か理由があって私と向き合ってくれないのだと考えるようになって……


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