桃色溺愛婚 〜強面御曹司は強情妻を溺愛し過ぎて止まらない〜
「……そうか、きちんと妻として見ていないの俺の方か。杏凛の言う通りかもしれないな」
そう言いながらも匡介さんの声はいつも通り低く落ち着いている。匡介さんはもっと前からその事に気付いていたのだろう。
大切に扱われている事は分かっていたけれど、決して彼は私を同じ位置には立たせてくれなかった。必要以上に大事にされて、対等になることが出来ないでいた。
「ええ、そうよ。こうして抱きしめあって温もりを感じて、これでもまだ私は匡介さんの望みを叶え足りないくらいだもの」
「……意外と欲張りな一面もあるんだな、君は」
そうさせたのは貴方、私にここまで我慢させた匡介さんが悪いのよ。願いが一つ叶えばもう一つ欲しくなる、それはきっと私も匡介さんも同じのはず。
「叶えさせてください、匡介さんの願いを全部。それが今、私が一番望んでることなんですから」
「……杏凛、俺は君に到底勝てそうになくなった気がする」
匡介さんの困ったような声音に少しだけ気分が良くなる。今まで困らされ振り回されたのは私の方、これからは逆転するのも悪くない。
そう思ってクスクスと笑っていると、背中に回された腕の力がほんの少し強くなる。
「ふふ、じゃあ匡介さんはどんな反撃をしますか?」
「……いいや、杏凛にならば俺は負けっぱなしでも構わない」
そんな会話をしてどちらから止めるとも言いだすこともなく、私達は長い時間その場所で抱きしめ合っていたのだった。