桃色溺愛婚 〜強面御曹司は強情妻を溺愛し過ぎて止まらない〜
いつも通り匡介さんには教室の外で待ってもらい、私は料理教室の扉を開けて中へと入る。するといつもは香津美さんと二人でいるはずの月菜さんが一人で立っている。
もう少し早く来ればよかったかもしれない、そう思いながら彼女に声をかけた。
「こんばんは、今日は香津美さんが来れなくて残念ですね」
それを聞いた月菜さんは、キョトンとした顔で逆に私に尋ねてきた。
「……え? 今日香津美さんはお休みなのですか?」
「ええ、さっきスマホにメッセージが入ってましたよ。月菜さんは気付かなかったのですか?」
しっかり者の香津美さんが月菜さんにメッセージを送り忘れるなんてありえない。月菜さんは鞄を開けて中のスマホを確かめようとしていたけれど……
「……スマホを忘れてきてしまったようです、すみません」
香津美さんもだが、月菜さんも見た目よりずっとしっかりしている。そんな月菜さんがスマホを忘れるなんて、何かあったのかしら?
よくみると彼女はいつもよりぼうっとしているような気がする。それが気になりながらも、私はさっきの香津美さんからのメッセージを月菜さんに見せた。
香津美さんが来れない事が残念なのか、ちょっと落ち込んだ顔をする月菜さんを元気づけたくて……
「月菜さんて意外とおっちょこちょいなんですね。しっかりとした方だとばかり思っていたから、ちょっとホッとしました」
香津美さんも月菜さんも私より年下なのに、大人みたいな女性だと思い込んでいた。彼女の少し年相応の姿を見て安心したのかもしれない。
自然と笑ってしまったが、よく考えると月菜さんに不快な思いをさせてないか心配だった。だけど月菜さんは私の顔を見て、少し驚いた顔をしてたから……
「どうかしたんですか、月菜さん?」
フルフルと首を振って「大丈夫です」と答える月菜さん、私もそれ以上は気にすることなく二人で調理に取り掛かったのだった。