桃色溺愛婚 〜強面御曹司は強情妻を溺愛し過ぎて止まらない〜
「……あ、やだ。どうしよう」
授業が終わり片付けを済ませて調理場を出ようとした時、隣の調理台で片付けをしていた女性が小さな声を上げた。
何かあったのかとそちらを見ると、ブレスレットの糸が切れたのか幾つかの天然石が転がっている。綺麗な紫と薄い青、きっと何かの意味があるのだろうけど……
石がコロコロとこちらまで転がって私の靴に触れそうになった、その時。
「すみません、取ってもいいですか?」
「え? ああ、すみません。気がつかなくって」
さっきの女性に声をかけられてハッとなる、一瞬だけ意識がどこかに行ってしまっていたような気がして。
慌ててしゃがんで天然石を拾って女性の手のひらへと渡す。女性はお礼を言うとすぐに調理場から出て行ってしまった。
「杏凛さん、どうかしたんですか?」
「いええ、何でもないの。すぐにそっちに行くから……あら?」
調理台の端にもう一つ、透明の天然石を見つけて拾いに行く。さっきの女性のだろうから、渡しに行かなくては。
手に取ってじっと見ていると何故が頭がグルグルとまわってくるような気がして、急いで調理場から出て月菜さんのところに戻った。
帰る準備をしていた月菜さんに声をかけようとして、またさっきの違和感に襲われその場でしゃがみ込んでしまう。
いつもの発作となんだか違う……? 駄目だわ、匡介さんを呼ばなきゃ……
けれど意識はどんどん遠くなっていき、私の異変に気付いた月菜さんが慌てて私の傍に来てくれたことまでしか記憶にはなかった。
すぐに教室の中に入り私を抱き上げてくれた匡介さんの事も、手のひらから零れ落ちた水晶のビーズの事も……
後でその時の状況を月菜さんから教えてもらうまでは……