桃色溺愛婚 〜強面御曹司は強情妻を溺愛し過ぎて止まらない〜
「どうですか、鵜方先生?」
「そう焦らないで待っててくれるかな、鏡谷さん。杏凛の事が心配なのはわかるけれどね」
どこからともなく匡介さんと鵜方先生の声が聞こえる。目を開けたいのに瞼が重くて持ち上がりそうにない。
「うーん……脈拍や心拍、血圧も正常範囲内だね。今はただ眠ってる状態と言っていいだろうけど、いつもとは杏凛の様子が違ったんだよね?」
「そうなんです、杏凛な顔色が真っ青で冷や汗をかいて……」
眠ってる、そうか。私は今眠ってるのね、意識はぼんやりとしてるが二人の声はハッキリと聞こえてくるのに。
「そうか、少しあっちの部屋で話を聞かせてもらえるかい? ああ、一緒に来たお嬢さんも一緒で構わないなら、どうぞ」
「構わない、月菜さんも一緒に来てくれ」
「……はい、わかりました」
月菜さん? ここに月菜さんもいるの? それなら私が起きなくては、そう思うのに体は鉛のように重いまま言うことを聞かない。
ぱたんと扉の閉じられる音が離れた場所で聞こえ、物音の無い空間に残される。
また匡介さんに迷惑をかけてしまった、きっとあの時一緒に居た月菜さんにも。こうやってこの病気と付き合っていくことは、誰かの負担になるという事。
……このまま、私はみんなの傍に居てもいいのだろうか? いっそ匡介さんや月菜さんから離れて実家に戻るべきなのではないのか。
ぼんやりした思考のなか、再び深い闇の中へと落ちていく感覚を味わって……
そんな時に私に隠れて、匡介さんと月菜さんが交換取引をしているなんてこの時は思いもしないまま。